金谷さおりブログ きみのゆめ農園

Saori Kanaya Private Blog

秋田県五城目町

【農×福】オリーブの木々が見守るソーシャルファーム、埼玉福興株式会社

先日、埼玉県熊谷市にあるソーシャルファーム、埼玉福興株式会社さんを訪れました。
28名の方々が共に生活を営むグループホームがあり、目の前には大きなオリーブの木々が、皆さんを見守るかのように佇むのどかな場所。
ここで農業が始まったのは、約10年前のことだと、代表取締役の新井利昌さんは語ります。

もともとは縫製業を営むご両親のもとで育った新井さん。
しかし、縫製業だけで生計を立てることが難しくなってきたことから、自宅を改装して障害を持つ方々に生活の場を提供する福祉事業を始めることになり、多様な人材と身近な場所で生活を共にしてきたといいます。

平成5年、ご自身で知的障害者の生活寮をスタート。
そして、障害を抱える方々の働く場が少ないことに気がついた新井さんは、平成16年からオリーブの栽培に取り組み始めました。
オリーブ栽培について「ひらめきでした(笑)」と語る新井さん。しかし、全国各地のオリーブ生産地を訪れ、知識を得ながら、障害者の方々と共にゆっくりと大切にオリーブの木々を育てていきます。

地中海性の温暖な気候が適していると思われるオリーブですが、実は生育温度はー10℃~40℃と非常に幅があるのが特徴。
一方、酷暑のイメージで知られる熊谷市ですが、冬には雪が積もるほど寒くなることもあり、年間を通した気温差はオリーブの生育温度とほぼ一致しています。暑さも寒さも厳しいためか、オリーブの天敵になる害虫が発生せず、ゆっくりながらも順調に育っていったのだとか。実は、オリーブの生育と熊谷市の気候の親和性は、非常に高かったのかもしれませんね。

埼玉福興

ようやく収穫量が安定してきたのは、つい最近のこと。
そして、オリーブオイルを絞る技術についても学びを重ねていきました。
埼玉福興で搾り屋の重責を担うのは、周囲から「親方」と慕われる一人の青年。機械好きという特性と実直な研究者気質を発揮して、素晴らしいオリーブオイルを絞ります。
そしてなんと、今年行われた「OLIVE JAPAN 2016 国際オリーブオイルコンテスト審査会」では、栄えある金賞に輝いたのです!!

私が訪れた日、今が旬のたまねぎで大忙しだった親方ですが、新井さんからの「オリーブオイルの絞り方を説明してあげて」というリクエストに快諾してくださり、機械の仕組みやオリーブオイルの楽しみ方を、とても丁寧に説明してくださいました。
そして、販売するほど数量がないという、なんとも貴重な金賞受賞のオリーブオイルを試飲させていただきました。

その経験は、今でも忘れられない衝撃です。
透き通った美しい緑色と、まるで青りんごのようにフルーティーな香り高さ、そして香りごとさらりと喉から体に落ちて染み渡るオリーブオイルのコクと旨味。
全てが人生初めての感覚ばかりで、「今まで使っていたオリーブオイルは一体なんだったんだろう??」と逆ショックを受ける私に対し、親方は(たぶん少々引いていたとは思いますが・・・)、笑顔で「一本プレゼントします」と希少な非売品のオイルをプレゼントしてくださいました。

多様な人材がいて、知的障害や精神障害や、あるいは更生が必要な方など様々ですが、「農業」という道しるべを掲げながら、一人ひとりの良い部分を活かして付加価値のある取組をし、さらに事業として成り立たせている埼玉福興さんに、ただただ私は感動するばかりでした。

オリーブオイルだけではなく、埼玉福興さんでは他にもたくさんの貴重な取組をされています。
・障害者の「通年作業」を確保するため、オリーブの葉に着目してお茶を製造する(これがまた美味しい!)
・売れるものを作るというマーケットインの発想から野菜の契約栽培をする(大規模ロットを実現できるからこそ!)
・埼玉名物のネギの生産・出荷が難しかったので、苗作りに特化する(地域農業に貢献!)

などなど、これまで一生懸命やってきたからこそ分かる「できること、できないこと」そして「やらなければいけないこと」をしっかりと考えて農業生産をしていました。

何もかもの全てが、素晴らしくて、清々しくて、一生懸命で、自然で・・・。
だからこそ蓄えることができた、強くて持続可能な「農業生産力」。
福祉の分野から生まれた埼玉福興さんの農業に、見習うべき点が、多々あるような気がしています。

農業をはじめて10年。ようやく、付加価値ある商品の生産・加工・販売ができるようになりました。
障害者も、ひと通りの農作業を、職員なしでもこなせるようになりました。

「障害者の成長のスピードと、農業の成長のスピードは、一緒なんですね」
全てを大きな気持ちで支えてきた新井さんの一言が、今でも忘れられません。