金谷さおりブログ きみのゆめ農園

Saori Kanaya Private Blog

秋田県潟上市

【農×福】農福連携のかたち

近年、農業の新たな可能性として、福祉分野と連携した「農福連携」が注目されています。
担い手不足や耕作放棄地の増加など農業サイドの抱える課題と、就労や社会参加の場を必要とする福祉サイドの抱える課題との双方を解決できるという期待から、農林水産省は厚生労働省との連携のもと、福祉農園の開設や専門家派遣等、ソフト・ハードの両面からの先進事例創出と横展開を推進してきました。
行政が主体となって連携を支援する動きも、全国的な広がりが見られるようになっています。

ひとことで「農福連携」と言っても、様々な方法があります。
アプローチ方法から見てみると、
①障害者施設や高齢者施設など、福祉分野から農業分野に進出するケース
②農業者が障害者を雇用したり作業委託するなど、農業分野から福祉分野に進出するケース
③特例子会社など企業が農福分野に進出するケース
と、大きく3つに分けることができます。

さらに、①と②の場合では、同一組織内で事業を行うのか、あるいは別主体を設立(もしくは委託)して事業を行うのかによってもアプローチ方法が異なります。
つまりは、
①-1 福祉施設が、その施設の事業の中で農業に取り組む
①-2 福祉施設が別主体(農業生産法人や企業など)を設立して農業に取り組む
②-1 農業者が障害者などを直接雇用するなどして、福祉と連携する
②-2 農業者が別主体(福祉施設やNPO法人など)に作業委託するなどして、福祉と連携する
と、さらに細分化することができます。
それぞれについて見ていくことにしましょう。

①-1 福祉施設が、その施設の事業の中で農業に取り組む
福祉施設が行うサービスには、本当にたくさんの種類があります。
例えば、障害者総合支援法に基づく就労支援としては、一般企業への就職を目指す障害者が一定期間訓練を受ける「就労移行支援」と、一般企業での雇用が困難な障害者に対し就労機会を提供する「就労継続支援」があり、就労継続支援は雇用契約を結ぶA型と、雇用契約を結ばないB型にさらに分かれます。
つまり、①-1にある福祉施設が事業の中で農業に取り組むとは、就労移行支援や就労継続支援の中で農業を行い、その収益が障害者の受け取る工賃に反映されるという仕組みです。
また、単に「就労」という切り口だけではなく、1970年代半ばから「園芸療法」「園芸福祉」が行われてきたように、ケア、レクリエーション、教育、癒しの場としても、農業の持つ他面的な機能が発揮されてきました。
農地の確保や、農業生産技術をいかに習得するかといった点については現状の課題でもあり、近隣の農家さんとの協力関係が大切と言えるでしょう。

①-2 福祉施設が別主体(農業生産法人や企業など)を設立して農業に取り組む
社会福祉法人などの福祉サービスを提供する事業所が、農業生産や加工・販売を行うための主体として、別途農業生産法人や企業を設立するケースです。
農業生産法人になると、設備投資にあたり農業関係の補助金を受けられるといったメリットがある一方で、採算性を確保するためにも農業経営の知識を習得したり、販路を確保するといった課題にも直面します。
先進事例として有名なのは、栃木県足利市にある障害者施設「こころみ学園」。1950年代から園生がぶどう作りをはじめ、1980年にはその保護者の出資金により「有限会社ココ・ファーム・ワイナリー」を設立。ワインの加工・販売を行うほか、自家製ワインを楽しむことができるカフェの経営なども展開しています。

②-1 農業者が障害者などを直接雇用するなどして、福祉と連携する
農家さんや農業生産法人が、障害者を直接雇用するケースです。
先進事例として有名なのは、静岡県浜松市にある「京丸園株式会社」。1994年から障害者雇用をはじめ、水耕栽培で芽ねぎやちんげんさいを通年生産しています。障害者の能力を活かすことで、付加価値の高い農産物生産に成功し、経営基盤を築いてきました。(※その成長物語は、あらためてご紹介したいと思います。)
このケースでは、周囲のスタッフがいかに障害者を理解し、就労環境を整備していくかが大切になります。

②-2 農業者が別主体(福祉施設やNPO法人など)に作業委託するなどして、福祉と連携する
農家さんや農業生産法人が、農作業を障害者施設などに業務委託することで、福祉と連携していくケースです。まずは農家さんが福祉施設職員に農作業を教え、福祉施設職員がその作業に合った能力を持つ障害者に農作業を教えます。コミュニケーションの間に職員がいるので、双方にとって作業がやりやすくなるという利点があります。また、農家さんは手が足りない部分の作業だけを委託できますし、福祉施設にとっては自前で農地の確保や設備投資を行わなくて済みます。
大切になってくるのは、農家さんと福祉施設のマッチング、そして綿密な事前打合せ。これを進めていくためには、第三者(理想を言えば自治体など)の支援が必要不可欠です。
先進事例としては、ユニバーサル農業の推進を重点戦略として位置づけている、栃木県の取組があります。先日、栃木県のご担当の方にお話を伺う機会がありました。これについても、詳細はまたあらためてご紹介したいと思います。

③特例子会社など企業が農福分野に進出するケース
特例子会社とは、簡単にご説明すると、企業が障害者の雇用を促進する目的でつくる子会社。障害者雇用促進法で定められていて、企業が障害者のために特別な配慮をし、一定の要件を満たしていると認められると、その子会社の障害者雇用数が親会社の雇用分と合算することが認められます。
現在、民間企業の法定雇用率は2.0%。平成26年の「障害者雇用状況」集計結果によると、法定雇用率達成企業の割合は44.7%にとどまっています。
特例子会社による農業参入の先進事例としては、コクヨ株式会社の子会社で、大阪府泉南市にある「ハートランド株式会社」があります。周年で安定した就労を確保するために水耕栽培を選び、ニッチでも潜在需要の多いサラダホウレンソウを生産しています。
特例子会社は、親会社グループからの出資や営業ノウハウなどの活用が期待できる一方で、最低賃金を支払う必要性から比較的障害の軽い人が雇用される傾向があったり、農業技術の習得にコストを要するなどの課題もあります。しかし、親グループの信用力もあり、少ない募集枠に多数が応募するなど、障害者にとっては非常に人気倍率の高い就職先になっています。

以上、細分化した5つのアプローチ方法について見てきました。
どのアプローチ方法を選ぶことが適切であるかといった判断は、「事業主体が誰であるか」「事業目的が何であるか」によって異なり、それぞれに利点と課題があります。

その課題に向き合ってきた先進事例に習いつつ、地域の実情に合った農福連携の取組が、全国のあちらこちらで進んでいくことが期待し、私自身もコンサルタントとして、社会福祉士として尽力したいと思う毎日です。